ITストラテジストの年収は?仕事内容や必要なスキル、キャリアパスを解説
「ITストラテジスト」という資格名を聞いて、自分の年収にどのくらい影響するのか気になったことはないでしょうか。
ITストラテジスト試験は、情報処理技術者試験の中でも最難関に位置づけられる国家資格であり、合格率は例年15%前後で推移しています。企業のDX推進が加速するなか、経営戦略とIT戦略を結びつける人材への需要は高まっていますが、実際にITストラテジストという肩書きで働く人は少なく、転職市場ではITコンサルタントに近い職種として評価されることが多いです。
そのため、年収を調べる際には、公的な統計データと求人データの両方を確認すると、実態をつかみやすくなります。この記事では、以下の内容を解説します。
- 厚生労働省のデータと求人データから見るITストラテジストの年収の実態
- 業務内容や資格の特性から見る、年収が高くなりやすい3つの背景
- ITストラテジストの仕事内容と、ITアーキテクトやプロジェクトマネージャーとの役割の違い
- ITストラテジスト試験の難易度や合格率、資格取得によるメリット
- キャリアアップにつながる関連資格
ITストラテジストという資格やキャリアパスに興味があるエンジニア、コンサルタントの方に、年収の実態とキャリアアップのヒントをお伝えしているので、ぜひ参考にしてください。

著者
江原 万理
(Ehara Mari)
大学を卒業後、事業会社を楽天グループにてマーケティングコンサルタントとしてMVPを受賞。ITエンジニアやCRM領域からIT系コンサルファームへの転職支援に強みを持つ。特に面接対策を強みとしており、量・質ともに業界トップクラスの転職成功率を有する。
プロフィール詳細を見る

監修者
伊東 光雄
(Ito Mitsuo)
専門学校卒業後、約12 年間IT サービス事業会社にてシステム開発、インフラ運用管理、自社製品の新規開拓営業に従事。その後、2014 年に株式会社ワークポートに就業しキャリアアドバイザーとして転職相談にお越し頂く求職者に対し、キャリアに関する相談業務~求人企業のご紹介~内定・入社までのサポート及び、入社後のアフターフォロー業務全般に従事。
プロフィール詳細を見る
目次
CONTENTS
ITストラテジストの平均年収は?
ITストラテジストの年収は、どのデータを見るかで金額が変わります。ここでは、数字の出所を2つに分けて整理します。
- 厚生労働省の統計では約889万円と算出される
- 転職市場の求人データでは約997万円まで上がる
同じ職種を指しているのに100万円以上の差が出るのは、集計の前提が違うためです。
厚生労働省の統計では約889万円
厚生労働省が運営する職業情報提供サイト(job tag)では、ITコンサルタントの平均年収を約889万円と示しています。この数字のもとになっているのは賃金構造基本統計調査であり、実際に働いている人が受け取った金額を集計した数値です。求人票に書かれた提示額ではなく、支給された実績にあたります。
ただし、889万円はITストラテジストという職種だけを切り出したものではありません。基盤システムを担当するシステムエンジニアのほか、プロジェクトマネージャーやITコンサルタントを含む複数の職種を合算した区分の平均です。上流の仕事以外を担当する人も母数に入っているため、ITストラテジスト相当のポジションの実態より低めに出ます。
年齢別に見ると、この傾向はよりはっきりします。令和7年賃金構造基本統計調査では、平均年収は30代前半で866万円、40代前半で1,189万円、45〜49歳で1,226万円と推移していました。全年齢を均した数字と40代前半の水準では300万円以上の開きがあり、平均値だけを見ると40代以降の実態を低く見積もることになります。
公的統計を見るときは、平均値そのものより年齢別の推移を確認するほうが、自分の位置をつかみやすくなります。
参考:職業情報提供サイト(job tag)ITコンサルタント(厚生労働省)
転職サイトの求人相場では約997万円
転職市場の数字は、公的統計より高く出ます。エンジニア特化の転職エージェント「テックゴー」が保有する求人データでは、ITコンサルタント職の平均年収は997万円、中央値は950万円でした。求人票の上限額だけを平均すると1,338万円まで上がります。
公的統計との差が100万円以上開くのは、集計している対象が違うためです。求人データは企業が募集時に提示した金額を集めたものであり、そのポジションで採用したい人材に支払う想定額を示しています。在職者の実支給額を集めた公的統計と比べると、採用競争の激しい上流ポジションほど提示額が高めに出ます。上流の求人に絞って扱う1社のデータである点も、市場全体の平均より高く出る理由です。
もうひとつ押さえておきたいのは、997万円がITコンサルタント区分から算出した数字である点です。ITストラテジストという名称で市場に出回る求人はほとんどなく、この記事でも近接する職種の数値を使って推定しています。実際にどの名前で募集されているかは、後半で整理します。
転職後の年収を見積もるときは、求人相場を上限、公的統計を下限として置いてください。2つで挟むと、現実的なレンジが見えてきます。
(※1)テックゴーが保有する求人情報より算出。
こちらの記事では、ITエンジニアの平均年収を職種別・年代別・経験年数別に解説しています。ITストラテジスト領域だけでなく、業界全体の相場感から自分の位置を確かめたい方におすすめです。

【2026年】ITエンジニアの平均年収は?職種・年代・企業規模別の相場
現職別に見るITストラテジスト領域へ移った場合の年収レンジ
相場がわかっても、自分の現在地からいくら上がるのかが見えなければ、転職に踏み出す判断はできません。ここでは、現職ごとに起点となる年収と、移った場合に届くレンジを整理します。
- SIerのシステムエンジニア・プロジェクトリーダー
- SIer・ベンダーのプロジェクトマネージャー
- 事業会社の社内SE
- 事業会社のIT企画・情報システム部門
前提として、職種ごとの現在の年収を確認しておきます。テックゴーが保有する求人データ(※1)では、それぞれの平均年収と中央値は次のとおりでした。
| 職種 | 平均年収 | 中央値 |
|---|---|---|
| SE | 698万円 | 650万円 |
| 開発エンジニア | 710万円 | 675万円 |
| 社内SE | 613万円 | 623万円 |
| PL | 763万円 | 738万円 |
| PM | 890万円 | 875万円 |
| ITコンサルタント | 997万円 | 950万円 |
求人票に記載された職種名で集計しているため、以下の見出しで扱う区分と名称が一部異なります。IT企画は事業会社の給与テーブルで年収が決まるため、求人データでの把握が難しい職種です。
この表の一番下にあるITコンサルタントが、ITストラテジスト領域の到達点にあたります。超上流を担うポジションの多くが、市場ではITコンサルタントという名前で募集されているためです。
SIerのシステムエンジニア・プロジェクトリーダー
SIerでSEやPLを務めている場合、起点となる年収はSEで698万円、PLで763万円です。ここからITコンサルタント領域の997万円まで移ると、SEからは約300万円、PLからは約230万円の上げ幅が見込めます。
ただし、この差額がそのまま一度の転職で実現するわけではありません。年齢による水準の違いが効いてくるためです。令和7年賃金構造基本統計調査では、開発系の職種区分の平均年収は30代前半で560万円、30代後半で636万円でした。一方、プロジェクトマネージャー・コンサルタントを含む区分は30代前半で866万円、30代後半で968万円です。同じ30代でも、担当する工程が変わるだけで300万円前後の差が生まれています。
この層で評価の分かれ目になるのは、要件定義の経験です。顧客と仕様を詰めた経験があれば、超上流を担うポジションの選考対象にはなります。どれだけの差がつくかは、次の「ITストラテジストの年収を決める3つの要素」で数字とともに扱います。
詳細設計から下の工程が中心であれば、まず要件定義を任される環境へ移るほうが確実でしょう。
こちらの記事では、システムエンジニアの平均年収を年代や経験年数別に整理し、転職市場の相場を解説しています。まず自分の現在地が相場と比べてどうかを確かめたい方におすすめです。

システムエンジニアの平均年収は?年代や経験年数別の年収・転職市場の相場を解説
SIer・ベンダーのプロジェクトマネージャー
PMとして実績がある場合、起点年収は890万円、中央値は875万円です。ITコンサルタント領域の997万円までは約110万円の差にとどまり、他の職種と比べると上げ幅は小さく見えます。
注目すべきは上限の伸びです。求人の上限額を平均すると、PMは1,123万円であるのに対し、ITコンサルタントは1,338万円でした。到達できる上限が200万円以上高いため、移った直後の年収より、その後の伸びで差がつきます。年齢別に見ても、プロジェクトマネージャー・コンサルタントを含む区分の平均年収は40代前半で1,189万円、45〜49歳で1,226万円まで上がっていました。
この層が評価されるのは、予算とスケジュールを管理した経験そのものではありません。その投資が事業にどう効いたかを説明できるかという点です。納期どおりに納めた実績だけを語ると、実行を担う人材として評価され、提示年収もPMの水準に落ち着きます。
担当した案件が経営のどの課題に応えるものだったのかを整理しておくと、選考での評価は変わってきます。
【テックゴー編集部の見解】 PMの転向で見るべきは初年度の提示額ではなく「上限の位置」です。保有求人の上限額を平均すると、PMは1,123万円、ITコンサルタントは1,338万円で、215万円の差があります。移った直後の提示額は100万円程度の上乗せにとどまることが多い一方、3年後に届く水準が変わります。
直近の案件で、予算の増減を自分で起案したことがあるかを振り返ってみてください。起案の経験があれば、投資の判断側として評価される材料になります。
こちらの記事では、PMの年収相場を年代別のデータで整理し、1,000万円に届くための条件を解説しています。PMのまま年収を伸ばす道と比較したうえで転向を検討したい方におすすめです。

プロジェクトマネージャーの年収相場は?年代別データと1000万円への道
事業会社の社内SE
事業会社の社内SEから移る場合、テックゴーの保有求人では年収の中央値は623万円でした。企業規模や担当範囲による幅は大きいものの、30代でこの水準前後にいる方が多いでしょう。
そこからITコンサルタント領域の997万円を目指す場合、300万円以上の上げ幅が見込める一方で、一度の転職で到達するのは難しいのが実情です。社内SEの業務はシステムの運用や社内からの問い合わせ対応が中心になりやすく、投資の判断に関わる経験を積みにくいためです。
現実的なのは、同じ事業会社でもIT企画やDX推進を担う部署へ移り、そこから上流の実績を作る道です。社内システムの刷新を企画した経験や、ベンダーの選定を主導した経験があれば、超上流の実務として評価されます。運用の担当者ではなく、投資を決める側に回った経験があるかが分かれ目になります。
現職でこうした業務に手を挙げられる余地があるなら、転職の前に社内で動くほうが早い場合もあります。
こちらの記事では、社内SEの年収を求人データから読み解き、年収アップの方法を解説しています。まず社内SEとしての適正年収を把握してから次の一手を決めたい方におすすめです。

社内SEの年収はいくら?年代別・企業タイプ別の相場と年収を上げる4つの方法
事業会社のIT企画・情報システム部門
IT企画や情報システム部門にいる場合、ITストラテジスト領域へはもっとも近い位置にいます。ただし、同じ部署でもベンダーとの折衝や導入の管理が中心の方と、投資の判断そのものに関わっている方では、評価のされ方が変わります。後者であれば市場価値はすでに1,000万円の水準に届いており、前者であれば投資判断に関わる経験を1件作ることが次の一手になります。
投資判断まで担っている層の課題は、経験の中身ではなく評価のされ方にあります。事業会社の給与テーブルに沿って年収が決まるため、担っている業務の水準に対して報酬が追いついていないケースが出てきます。同じ仕事をコンサルティングファームで担当すれば1,000万円を超える一方、事業会社では700万円台にとどまるという差が生まれます。
そのため、この層の年収を動かす要素は経験の積み増しではなく、転職先の企業タイプの選択です。コンサルティングファームのIT戦略ポジションでは、1,000万円を超える提示が出ています。事業会社に残る場合でも、DX推進を担うマネージャークラスであれば、水準は上がりやすくなるでしょう。
すでに超上流の実務を担っているのであれば、同じ業務がコンサルティングファームや他の事業会社でいくらと評価されるのかを確かめる価値があります。
社内で動くか、転職するかの分かれ目
上流の経験が足りないと感じたとき、現職で積むか環境を変えるかで迷う方は多いはずです。判断の材料になるのは、いまの職場に上流へ近づく導線があるかどうかです。
次の3つのうち2つ以上に当てはまるなら、社内で上流の経験を作れる余地があります。
- 直近1年で新規案件の立ち上げに関わる機会があった
- 顧客や事業部門との打ち合わせに、自分が同席する場面がある
- 見積もりや稟議の作成を任されたことがある
いずれも当てはまらない場合、現在の職場では要件定義より上の工程に触れる導線がありません。アサインを自分で選べない立場であればなおさらです。3年待っても状況が変わる見込みが立たないのであれば、30代のうちに環境を変えるほうが選択肢は広がります。
こちらの記事では、上流工程の仕事内容と年収、求められるスキルを解説しています。まず要件定義より上の工程で何を任されるのかを具体的に知りたい方におすすめです。

エンジニアの上流工程とは?仕事内容、年収、メリット、求められるスキルを徹底解説
ITストラテジストの年収を決める3つの要素
同じITストラテジスト領域でも、提示される年収には数百万円の幅があります。この差を生んでいるのは、能力の優劣ではなく、どこでどの工程を担当するかという条件の違いです。
年収を左右する要素は、次の3つに整理できます。
- 担当する工程が要件定義より上か下か
- 転職先の企業タイプ
- 担当する業界
自分がどの条件に当てはまるかを確認すると、目指すべきレンジが見えてきます。
担当する工程が要件定義より上か下か
年収にもっとも大きく効くのは、担当する工程の位置です。要件定義を境に、市場での評価は明確に変わります。
テックゴーの自社調査(※2)では、要件定義の経験がある方の前職年収の中央値は600万円、経験がない方は430万円で、170万円の差がありました。同じ年数の実務経験を積んでいても、任される工程が違うだけでこれだけ開きます。
さらに上の層では、要件定義より手前の工程を担えるかが分かれ目です。要件定義は、何を作るかがすでに決まった状態から仕様を固める作業にあたります。一方、超上流工程は作るかどうか、そもそも何に投資すべきかを決める段階です。前者が実行の担い手として評価されるのに対し、後者は投資の判断者として評価されるため、提示年収の前提が変わります。
【テックゴー編集部の見解】 評価の分かれ目は「案件が始まった時点で目的が決まっていたか」です。転職相談登録者4,927名(2024年11月4日〜2026年9月15日、集計日2026年9月15日、対象者の平均年齢31.3歳)の集計では、要件定義の経験がある方の前職年収の中央値は600万円、ない方は430万円でした。同じ年数の実務でも、任される工程が違うだけで170万円の開きが出ています。
直近3件の案件を思い出し、着手時点で何を作るかが決まっていたかを確認してください。決まっていたなら実行側、決めるところから関わっていたなら判断側の経験にあたります。
(※2)テックゴー転職相談登録を対象とした自社調査。対象期間は2024年11月4日〜2026年9月15日、集計日は2026年9月15日、対象者の平均年齢は31.3歳です。
転職先の企業タイプ
同じ仕事を担当しても、所属する企業のタイプによって年収は変わります。報酬の決まり方そのものが異なるためです。
| 企業タイプ | 報酬の決まり方 | 年収の傾向 |
|---|---|---|
| SIer・ベンダー | 受注額から原価を引いた利益の枠内で決まる | 上限が抑えられやすい |
| 事業会社 | 全社共通の給与テーブルに沿って決まる | 職務の水準より等級に左右される |
| コンサルティングファーム | 提供した価値と成果に応じて決まる | 上限が伸びやすい |
同じ超上流の業務でも、企業タイプが変わるだけで数百万円の差が生まれます。事業会社は給与テーブルの上限に達しやすく、担っている業務の水準が高くても、等級が上がらなければ年収は動きません。実際の提示額は、後半の「年収1,000万円を狙えるポジションと実際の求人名」で整理します。
年収を最優先するならコンサルティングファーム、働き方の安定を重視するなら事業会社というように、条件を照らし合わせて選ぶとよいでしょう。
担当する業界
3つ目の要素は、どの業界を担当するかです。扱う業界によって案件の規模と単価が変わるため、年収にも反映されます。
年収が高く出やすいのは、次のような条件を満たす業界です。
- IT投資の予算規模そのものが大きい
- 基幹システムの刷新など長期の案件が動いている
- 規制対応が厳しく専門性が求められる
- 業界特有の業務知識を持つ人材が少ない
具体的には、金融、製造、エネルギー、公共といった領域が該当します。テックゴーが保有する求人でも、エネルギー分野や公共分野を専門に扱うIT戦略コンサルタントのポジションが出ています。業界を絞った募集ほど、提示年収は高い水準にありました。
業界の知識は、他の候補者との差をつくる要素になります。金融系のシステムに10年携わった経験は、同じ業界のIT戦略を担うポジションでそのまま強みとして評価されます。技術の汎用性より、業界の理解の深さが効く場面です。
現職で特定の業界に長く関わっているなら、その業界を軸に転職先を探すほうが、年収は上がりやすくなります。
こちらの記事では、コンサルとエンジニアの年収や仕事内容、働き方、向き不向きを比較しています。コンサルティングファームへ移るべきか具体的に比べたい方におすすめです。

コンサルとエンジニアはどっちが高年収?仕事内容や働き方、向き不向きを徹底比較
ITストラテジストが超上流工程で担う4つの仕事
年収を決めているのが担当工程だとわかっても、そのポジションで何を任されるのかが見えなければ、自分の経験が通用するかを判断できません。ITストラテジストの仕事は、要件定義よりさらに手前の超上流工程にあります。
ここで担当する業務は、大きく次の4つです。
- 経営課題を分析し抽出する
- IT戦略を策定し投資判断を支援する
- 開発計画を作成し関係者に共有する
- 戦略の実行と成果をモニタリングする
要件定義や設計の経験がある方であれば、このうちいくつかは近い業務に触れているでしょう。
経営課題を分析し抽出する
ITストラテジストの仕事は、企業のどこで業務が停滞しているのかを突き止めるところから始まります。市場の動向、競合の状況、自社の事業環境を調べ、現在の業務プロセスのどこに問題があるのかを洗い出す段階です。
開発の現場で受け取る課題は、すでに解決すべき対象として整理された状態で降りてきます。一方、超上流工程では課題そのものが定義されていない状態から着手するため、何を問題と見なすかを自分で決めなければなりません。ここが、要件定義とのもっとも大きな違いです。
たとえば、ある部門の生産性が低いという事象があったとします。現場からはシステムが使いにくいという声が上がっていても、実際の原因は部門間でデータの持ち方が揃っていないことにある場合があります。経営層と現場の両方から話を聞き、表に出ている症状と背景にある原因を切り分けるのが、この工程の役割です。
ここでの見立てを誤ると、その後に組み立てる戦略もずれます。投資の成否は、この段階でほぼ決まります。
IT戦略を策定し投資判断を支援する
課題が見えたら、次はそれをITでどう解決するかを描く工程に移ります。どの領域にシステムを入れるのか、既存の仕組みを作り替えるのか、どの順番で手をつけるのかを決めていく作業です。選択肢を複数並べ、それぞれの費用と効果を比べたうえで、経営層が判断できる形にまとめます。
この工程で問われるのは、技術の知識より投資に見合う成果が出るかを数字で示す力です。初期費用に加えて、運用の費用と削減できる工数まで含めて投資の妥当性を説明します。経営層は技術の詳細ではなく、投じた資金がいつどれだけ戻るかを見て判断するためです。
扱う範囲は、ひとつのシステムにとどまりません。部門ごとに要望を集めて積み上げると、部分的には最適でも全体では非効率な構成になります。同じデータを別々に持ち、連携のたびに手作業が発生するといった状態は、全体を見る役割が不在のときに生まれるものです。既存のシステム構成を把握したうえで、どこを残しどこを作り替えるのか、データをどこで一元化するのかまで方針を定めます。
新しい技術の扱いも、この工程に含まれます。経営層が知りたいのは仕組みではなく、自社にとって投資すべきものかどうかです。生成AIのように話題が先行する技術では、解決できる問題の範囲とまだ解決できない範囲を切り分け、過剰な期待を抑える役割も担います。
エンジニアとしてコストの見積もりを経験していれば、この工程には入りやすいでしょう。ただし、見積もりが開発費用の算出であるのに対し、ここで求められるのは投資として回収できるかどうかの判断材料を作ることであり、見る範囲が変わります。
開発計画を作成し関係者に共有する
戦略が固まったら、それを実行できる計画に落とし込みます。システムの全体像を示し、開発の範囲を区切り、いつまでに何を完成させるのかを決める工程です。必要な体制や予算の枠もこの段階で組み立てます。
もうひとつの役割が、関係者への共有です。経営層、事業部門、情報システム部門、開発を担うベンダーでは、関心のある論点も使う言葉も異なります。同じ計画書を渡しても、それぞれが別の理解をしたまま進んでしまうことがあります。誰に何をどの粒度で伝えるかを設計するところまでが、この工程に含まれます。
社内調整や顧客折衝の経験は、ここでそのまま活きます。ただし、調整する相手が開発チームやユーザー部門から経営層へと上がるため、技術の詳細ではなく事業への影響で説明できるかが問われる場面が増えていきます。
計画の精度と合意の質が、実行フェーズでの手戻りの量を左右します。
戦略の実行と成果をモニタリングする
IT戦略は、立てて終わりではありません。実行に移したあと、狙った成果が出ているかを継続して確認していきます。設定した指標に対する進捗を測り、計画と実績のずれがどこで生じているのかを把握する工程です。
差が出たときに問われるのは、計画どおりに戻すのか、計画そのものを変えるのかという判断です。市場環境は動き続けるため、策定時に正しかった前提が半年後には崩れていることもあります。前提が変わったのであれば、戦略を修正するほうが正しい対応です。
PMとの違いが出るのはこの部分でしょう。PMが見るのは決まったプロジェクトを納めきることであり、評価されるのは進行と品質と期限です。一方、ITストラテジストが見るのは投資が事業の成果に結びついているかであり、必要と判断すればプロジェクトの中止や方針転換も提案します。
そのため、複数の部門とベンダーが関わる計画を動かしてきたマネジメントの経験は、ここでそのまま前提になります。前述の自社調査(※2)では、マネジメント経験がある方の前職年収の中央値は600万円で、要件定義の経験がある方と同じ水準にありました。実装を担当してきた期間の長さより、人と計画を動かした経験のほうが年収に反映されていることがうかがえます。
経営戦略とIT戦略をすり合わせ続ける、終わりのない工程です。
こちらの記事では、ITストラテジストの役割と試験の難易度を含めて全体像を解説しています。資格と実務の関係から職種の輪郭をつかんでおきたい方におすすめです。

ITストラテジストとは?仕事内容・年収となり方、資格の必要性を解説
ITストラテジストの市場価値が高い3つの理由
同じIT人材でも、超上流工程を担える人の年収がなぜここまで高く出るのかには、はっきりした理由があります。仕事の難しさだけでなく、供給が追いついていないという市場側の事情が大きく効いています。
市場価値が高止まりしている理由は、次の3つです。
- 経営とITの両方を担える人材が社内で育たない
- ITSSレベル4相当として評価の基準が定まっている
- DX・生成AI投資の拡大で需要が高止まりしている
経営とITの両方を担える人材が社内で育たない
ITストラテジスト相当の人材が不足しているのは、企業が採用に消極的だからではありません。社内で育てる仕組みが作りにくいためです。
エンジニアのキャリアは、開発から要件定義、プロジェクトの管理へと積み上がっていきます。ところが、その延長線上に経営課題の分析を担当する機会が自動的に生まれるわけではありません。経営会議の議題に触れる機会も、投資判断の場に同席する機会も、通常の開発業務のなかにはないためです。上流の経験は、本人の努力より配属とアサインに左右されるという構造があります。
この問題を認識している企業もあります。運用と企画を数年かけて並行して担当させ、全体を見渡せる人材を育てようとする情報システム部門も出てきました。ただし、こうした育成には年単位の時間がかかり、その間に転職で抜けてしまう例も出ます。育成が追いつかないため、外部から採用する動きにつながっていきます。
IPAの調査では、DXを推進する人材について、量が不足していると答えた企業が85.5%、質が不足していると答えた企業が88.8%にのぼりました。質の不足のほうが高いという結果は、人数ではなく、経営とITをつなげられる水準の人材が足りていないことを示しています。
ITSSレベル4相当として評価の基準が定まっている
市場価値が高いと言われても、評価の基準があいまいであれば年収には反映されません。ITストラテジストの場合、スキルの水準を示す物差しが用意されている点が効いています。
経済産業省が策定したITスキル標準(ITSS)は、IT人材のスキルを7段階で分類した指標です。情報処理技術者試験はこのうちレベル1から4までに対応しており、ITストラテジスト試験は最上位のレベル4に位置づけられた高度試験にあたります。レベル4に到達するには、知識を持っているだけでは足りません。実務でその知識を使って成果を出した経験が、評価の対象に含まれる水準です。
この基準があることで、企業は候補者の水準を共通の物差しで測れます。職務経歴書の書きぶりや面接での説明だけに頼ると、評価する側とのあいだで認識のずれが生まれやすいものです。レベル4という共通言語があることで、提示年収の根拠を企業側が社内で説明しやすくなります。
エンジニアにとっても、自分がどの水準にいるのかを客観的に確認する材料になります。評価の基準が定まっている職種ほど、年収の交渉は進めやすくなるでしょう。
参考:共通キャリア・スキルフレームワーク/ITスキル標準(独立行政法人情報処理推進機構)
DX・生成AI投資の拡大で需要が高止まりしている
需要が落ちる気配がないことも、市場価値を支えています。企業のDX投資は継続しており、そこに生成AIの導入が重なったことで、判断を担える人材の不足がさらに目立つようになりました。
生成AIの導入で企業が直面しているのは、技術の選定ではなく使いどころの見極めです。どの業務に適用すれば投資に見合うのか、既存の仕組みとどう接続するのか、データの扱いをどう整理するのかといった論点は、技術だけでも経営だけでも答えが出ません。両方を見渡して優先順位をつけられる人材に、判断が集中しています。
IPAの調査では、AIの導入や活用において中心的な役割を担っているのはIT部門長という回答が46.0%でもっとも多くなっていました。技術を評価できる立場と投資を判断できる立場が重なる少数のポジションに、判断が集中している状況です。この層が薄い企業ほど、外部から採用する動きにつながっていきます。
この傾向はしばらく続くと見られます。投資の規模が大きいほど、判断を誤ったときの損失も大きくなるためです。投資の是非を判断できる人材への需要は、技術の流行が変わっても下がりにくいといえます。
こちらの記事では、エンジニアの市場価値がどう決まるのかと、高める方法を解説しています。自分の経験が市場でどう評価されるのかを整理したい方におすすめです。

エンジニアの市場価値はどう決まる?高める方法と将来性を徹底解説
ITストラテジストに求められる3つのスキル
ITストラテジスト領域で評価されるのは、技術の深さではありません。経営の課題をITで解ける形に変換し、投資の判断まで持っていく力です。
すべてを備えてから転職する必要はありません。ここでは、現職の経験をどう読み替えれば選考で通用するかという観点で、3つのスキルを整理します。
- 経営課題を構造化する分析力
- IT投資の効果を数字で説明する力
- 経営層と合意形成する提案・交渉力
経営課題を構造化する分析力
漠然とした問題を扱える形に分解する力です。経営層から出てくる要望は、売上を伸ばしたい、コストを下げたいといった抽象的な言葉であることが大半でしょう。
この状態から、どこに原因があるのかを筋道を立てて絞り込んでいきます。事実と推測を分け、原因と結果を取り違えずに整理できるかが問われる場面です。現場からの声をそのまま課題として受け取ると、対症療法の施策しか出てきません。
エンジニアであれば、障害の原因を切り分けた経験がそのまま活きます。ログから当たりをつけ、仮説を検証し、真因にたどり着く。この順序は、対象がシステムから事業に変わっても同じです。
職務経歴書に書くなら、障害対応の件数ではなく、どこまで切り分けて何を原因と特定したかを残してください。手順をなぞった経験と、自分で仮説を立てた経験は、読む側から見て別物です。
IT投資の効果を数字で説明する力
超上流工程でもっとも明確に求められるのが、投資の妥当性を数字で示す力です。この能力の有無が、提示年収に大きく影響します。
示すべきなのは開発の費用だけではありません。次の4点を含めて組み立てます。
- 導入後の運用にかかる費用
- 削減できる工数
- 増える見込みの売上
- 投資を回収するまでの期間
費用の見積もりと投資対効果の試算は、似ているようで目的が違う作業です。前者は必要な金額を積み上げるもので、後者は投じる価値があるかを判定するものにあたります。数字の精度そのものより、どの仮定に基づいた試算なのかという前提条件を明示できるかが重要です。
見積もりの経験がある方は、金額を積み上げる作業から、投じる価値を判定する作業へ視点を移すことになります。過去に作った見積もりのうち1件でも、削減できる工数や回収期間まで示した案件があれば、それは超上流の実務として書けます。
経営層と合意形成する提案・交渉力
分析の結果が正しくても、決裁者が動かなければ意味がありません。経営層に判断してもらうところまで持っていく力が求められます。
ここで効くのは、話し方の巧みさではありません。相手が何を基準に判断しているのかを踏まえて、材料を用意できるかです。経営層が見ているのは、次のような論点になります。
- 投じた資金がいつ戻るのか
- ほかにどんな選択肢があるのか
- やらなかった場合に何が起きるのか
技術的な優位性をいくら説明しても、この論点に答えていなければ決裁は下りません。複数の選択肢を並べ、それぞれの費用と効果とリスクを示せば、判断そのものは相手に委ねられます。
顧客との折衝経験がある方なら、相手の関心に合わせて説明を組み替える感覚はすでに持っているでしょう。あとは、その相手が部門の担当者から経営層に変わるだけです。
こちらの記事では、エンジニアのスキルマップの作り方を職種別に解説しています。自分の強みと不足している要素を棚卸ししてから転職を準備したい方におすすめです。

エンジニアのスキルマップの作り方|職種別9例と4段階のスキル評価レベルを解説
年収1,000万円を狙えるポジションと実際の求人名
ここまでの内容を踏まえて求人を探そうとすると、最初につまずくところがあります。ITストラテジストという名前で募集されている求人が、ほぼ見つからないためです。
IPAの試験要綱でも、ITストラテジスト試験は最高情報責任者(CIO)や最高技術責任者(CTO)といった経営層のIT責任者、ITコンサルタントを目指す人材に向けた試験として位置づけられています。つまり、資格名と実際の求人名は、ほとんど一致していません。求人検索でこの言葉を入力しても件数が伸びないのは、そのためです。
実際に年収1,000万円を狙えるのは、次の5つのポジションです。
| ポジション | 年収の目安 | 入りやすい現職 |
|---|---|---|
| ITコンサルタント・DXコンサルタント | 920万〜1,600万円 | SIerで上流のリーダー経験がある方 |
| IT戦略コンサルタント・IT企画 | 1,000万円前後 | 特定業界に長く携わった方 |
| PMO・デジタル変革PM | 1,000万円前後 | PM経験がある方 |
| 社内SE(DX推進・マネージャー) | 500万〜1,000万円 | 情シスで企画を担当している方 |
| CIO・情報システム部門長 | 非公開求人が中心 | 次の転職の先に置く目標 |
参考:ITストラテジスト試験(独立行政法人情報処理推進機構)
ITコンサルタント・DXコンサルタント
もっとも求人数が多く、年収も高く出るのがこの領域です。コンサルティングファームが外部の立場から、クライアント企業のIT戦略やDXの推進を担うポジションにあたります。
IT系のコンサルティングファームでは、DX領域を担当するプロジェクトリーダークラスで年俸920万〜1,600万円という提示が出ています。全社のシステム構成の方針を決めるポジションでも、420万〜1,250万円と幅を持たせた募集が見られました。下限が低く見えますが、経験の浅い層からマネージャークラスまでを同じ枠で募集しているためです。
求められるのは、上流工程でリーダーを務めた経験です。要件定義や構想の策定を主導した実績があれば、選考の対象にはなります。SIerでの上流経験がそのまま評価されやすいのが、この領域の特徴でしょう。
ただし、コンサルティングの実務が未経験の場合、提示されるのはコンサルタントやシニアコンサルタントの等級になります。この等級では、現職がPMクラスであれば提示額が横ばい、あるいは一時的に下がることもあります。年収を下げられない事情があるなら、応募の段階でどの等級での採用を想定しているかを確認してください。上げ幅が出るのはマネージャー以上の等級で、上流工程のリーダー経験があるかどうかが分かれ目になります。
IT戦略コンサルタント・IT企画(事業会社・ユーザー系SIer)
外部からの支援ではなく、企業の内側からIT戦略を担うポジションです。事業会社のIT企画部門や、親会社のシステムを担うユーザー系SIerが該当します。
このタイプの求人は、業界を絞って募集されることが目立ちます。エネルギー分野や公共分野を専門に扱うIT戦略コンサルタントのポジションや、グローバルのIT戦略の立案と推進を担う求人などです。特定の業界に長く携わった経験が、そのまま応募の条件を満たすケースが出てきます。
年収は1,000万円前後が目安です。ユーザー系SIerでも、上流の企画を担う立場であれば1,000万〜1,250万円程度の提示が見られました。
コンサルティングファームほどの稼働の重さを避けながら、超上流の業務に関わりたい方に向いた選択肢でしょう。
PMO・デジタル変革PM
プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)は、複数の部門やベンダーが関わる案件を横断して支える組織です。プロジェクトの推進を支える立場から超上流に関わるルートにあたります。
総合系のコンサルティングファームでは、PMOのポジションでコンサルティングファームの等級でマネージャーの一段下にあたるアソシエイトマネージャークラスであれば、年収1,000万円程度が目安になります。小売や流通、外食といった業界向けのデジタル変革PMの求人も、継続して出ている領域です。
このルートの特徴は、SIerや事業会社からの転向が受け入れられやすい点にあります。プロジェクトを管理した経験が直接の応募要件になるため、コンサルティングの経験がなくても選考に進めます。年齢に対して年収が抑えられているPM経験者ほど、上げ幅は大きく出ます。
PM経験がある方にとって、現実的な入り口のひとつといえます。
こちらの記事では、PMOの役割やPMとの違い、組織における位置づけと将来性を解説しています。支援側から超上流に関わる道を具体的に検討したい方におすすめです。

PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)とは?仕事内容・PMとの違い・年収とキャリアパスを解説
社内SE(DX推進・マネージャークラス)
事業会社の内部でDXを推進する立場です。情報システム部門のなかでも、運用ではなく企画と推進を担うポジションが該当します。
求人名は企業によって幅があり、DX推進統括部のマネージャー、IT戦略・DX推進マネージャー、社内SE(IT企画)といった表記で募集されています。社内SEという同じ名前でも、運用中心の求人と企画中心の求人が混在しているため、業務内容を確認せずに応募すると想定と異なる結果になりかねません。
年収は職責によって開きます。DX推進の担当者クラスでは500万〜750万円程度の水準ですが、部門を統括するマネージャークラスになると1,000万円前後まで上がります。事業会社は給与テーブルに沿って年収が決まるため、等級が上がるかどうかが分かれ目です。
求人票では、経営層への報告や投資判断への関与が業務に含まれているかを確認しましょう。
CIO・情報システム部門長
ITストラテジストが担う役割の到達点にあたるポジションです。企業のIT部門全体を統括し、経営会議の場でIT投資の方針を決める立場になります。
このクラスの求人は公開されないことが多く、転職サイトで見つけられる件数は限られます。募集そのものが非公開で進むケースが目立つためです。年収の水準は企業規模と役員待遇の有無で大きく変わるため、一律の目安は示しにくいのが実情でしょう。
ここに到達するまでには段階があります。IT企画やDX推進の責任者として実績を積み、投資の判断に関わった経験を重ねたうえで、部門全体を預かる立場に上がるという道筋です。年齢というより、投資判断に関わった実績の積み上げが前提になるポジションにあたります。次の転職で超上流に移り、そこで実績を作ったうえで見据える目標として置くのが現実的でしょう。
まずは投資判断に関われるポジションに移ることが、この道の起点になります。
こちらの記事では、エンジニアが年収1,000万円に届くためのキャリアプランや職種、注意点を解説しています。到達までの道筋を具体的な数字で描きたい方におすすめです。

エンジニアで年収1000万を目指すには?割合・企業・職種と到達ルートを解説
ITストラテジスト試験に合格すれば年収は上がるのか
資格の取得に数百時間を投じる前に、それが年収に返ってくるのかを確かめたい方は多いでしょう。結論から言えば、合格しただけで転職時の提示年収が上がることはほとんどありません。決めているのは実務の中身です。ただし、選考の通過率と社内の資格手当には効きます。
- 書類選考の通過率と資格手当には効く
- 提示年収そのものは実務経験で決まる
この2つを分けて考えると、試験に年単位の時間を投じるかどうかを自分で判断できます。
書類選考の通過率と資格手当には効く
資格がもっとも効くのは、選考の入り口です。職務経歴書を読む段階では、企業は候補者の経験を文章からしか判断できません。同じような経歴が並んだとき、合格率15%前後の高度試験に通っているという事実が、書類を通す後押しになります。
ITストラテジスト試験は、情報処理技術者試験のなかで最難関に位置づけられる国家資格です。合格率は近年15%前後で推移しており、受験者の6〜7人にひとりしか通りません。この難易度は企業側にも知られているため、経営視点で物事を考えられる候補者だという推測が働きます。
もうひとつ効くのが資格手当です。高度試験の合格を給与に反映する制度を持つ企業は一定数あります。制度があれば、転職をしなくても月々の収入に上乗せされます。あわせて、ほかの高度試験を受けるときに試験の一部が2年間免除される仕組みもあり、複数の資格を取る計画がある方には時間の節約になるでしょう。
選考の入り口を広げる手段として見れば、投資に見合う資格です。
参考:情報処理技術者試験 統計資料(独立行政法人情報処理推進機構)
提示年収そのものは実務経験で決まる
一方で、資格があるから年収を上げるという判断を企業はしません。提示額を決めているのは、どの工程を、どの規模で担当してきたかという実務の中身です。
前述のとおり、要件定義の経験の有無で前職年収の中央値に170万円の差が出ています。同じ資格を持っていても、担当した工程が違えば年収は変わります。逆に、資格がなくても超上流の実務を担っていれば、その経験は評価されます。
試験の合格者の年齢層も、この構造を裏づけています。ITストラテジスト試験の合格者の平均年齢は40歳前後で推移しており、ほかの試験区分と比べて高い水準です。試験で問われる内容が実務の経験を前提にしているため、現場で経営課題に向き合った人ほど合格しやすいという関係にあります。資格が先にあって実務がついてくるのではなく、実務の裏づけがあるから合格できるという順序です。
試験は年1回しかなく、合格までに年単位の計画が必要になります。その期間に上流の案件を担当できる環境にいるかどうかのほうが、年収への影響は大きくなるでしょう。現職で上流の経験を積めないのであれば、環境を変えることを先に検討してください。
こちらの記事では、システムエンジニアが取得を検討したい資格15選を、必要性や経験年数別の選び方とあわせて解説しています。ITストラテジスト試験以外の選択肢も含めて比べたい方におすすめです。

システムエンジニアの資格おすすめ15選!資格の必要性と経験年数別の選び方も解説
年収アップを目指すエンジニアの転職ならテックゴー
ITストラテジスト領域の年収は、担当する業務や転職先によって異なります。同じIT企画の求人でも業務範囲はさまざまなため、自分の経験がどの程度評価されるのかを把握したうえで求人を選ぶことが大切です。
テックゴーは、エンジニア・ITコンサル領域に特化した転職エージェントです。元エンジニア・ITコンサル出身のアドバイザーが経験やスキルを整理し、希望に合った求人選びをサポートします。
- 上流工程の求人を多数保有
- 平均年収アップ金額144万円
- 年収アップの成功率86%
- 面接対策は回数無制限
要件定義や顧客折衝などの経験が、転職市場でどのように評価されるのかを知りたい方は、テックゴーの無料相談をご利用ください。
こちらの記事では、エンジニアのキャリア相談先を4種類に分けて比較し、失敗しない選び方を解説しています。誰にどこまで相談できるのかを先に知っておきたい方におすすめです。

エンジニアのキャリア相談はどこがいい?相談先4種の比較と失敗しない選び方
まとめ
この記事では、ITストラテジストの年収を公的統計と求人相場の2つの出所に分けて整理しました。889万円と997万円という数字の差は、実支給額と提示額という集計の前提の違いから生まれています。あわせて、現職別のレンジ、年収を決める3つの要素、実際に募集されている求人名を確認してきました。
年収を動かすうえで効くのは、資格の有無ではなく、どの工程を担当しているかという実務の中身です。要件定義の経験があるかどうかで前職年収の中央値に170万円の差が生まれており、超上流に近づくほどこの差は開いていきます。
次に確認したいのは、現職で上流の案件に近づける導線があるかどうかです。新規案件の立ち上げ、経営層や事業部門との打ち合わせ、見積もりや稟議の作成。このいずれにも関われる見込みが立たないのであれば、環境を変えるほうが早い場合もあります。
求人を探すときは、ITストラテジストという名称で検索しても件数は伸びません。ITコンサルタント、IT戦略コンサルタント、IT企画、PMO、DX推進といった名前で探すと、これまで見えていなかった求人が見つかります。自分の経験がどのレンジで評価されるのかを確かめたい方は、テックゴーの無料相談をご利用ください。
よくある質問
ITストラテジストになるには何年くらいかかりますか?
試験勉強そのものに必要な期間は、実務経験のあるエンジニアであれば3ヵ月から半年程度が目安とされています。ただし、試験で問われる経営課題の分析や投資判断の支援といった内容は、実務経験がないと解答を組み立てにくいため、合格までの期間を考えるうえでは、実務経験を積む期間も含めて考える必要があります。
実際に、合格者の平均年齢は40歳前後であり、システムエンジニアやプロジェクトリーダーとしての経験を積んだうえで受験する方が多い傾向にあります。エンジニアとしてのキャリアをスタートしてから10年前後の実務経験を経て挑戦するケースが一般的といえるでしょう。
受験資格そのものに制限はないため、キャリアの早い段階から目標として意識しておくことも可能です。
ITストラテジストと中小企業診断士はどちらが難しいですか?
単純な合格率で比較すると、中小企業診断士の最終合格率は約4〜5%程度であり、ITストラテジスト試験の合格率15%前後よりも低い数字です。この点だけを見ると、中小企業診断士のほうが難しいように感じられるでしょう。
一方で、必要な勉強時間で比較すると、中小企業診断士は1,000時間以上が目安とされ、実務経験のあるエンジニアであればITストラテジストは150〜200時間程度で合格に近づけるとされています。出題範囲の広さも異なり、中小企業診断士は経済学や法務、人事など幅広い分野を問われるのに対し、ITストラテジストはITとビジネスに関する内容に絞られています。
試験の性質が異なるため、単純にどちらが上ということはできませんが、総合的に見るとおおむね同程度の難易度と考えてよいでしょう。
ITストラテジストとITアーキテクトの違いは何ですか?
ITストラテジストとITアーキテクトは、どちらも上流工程に関わる職種ですが、担う範囲が異なります。
ITストラテジストは経営戦略にもとづいて、IT戦略として何を作るかという方向性を決める立場です。一方、ITアーキテクトは、ITストラテジストが示した方向性を受け取り、それを実現するための要件を定義し、システムのアーキテクチャを設計する立場にあります。
ITストラテジストが構想を描き、ITアーキテクトがその構想を技術的に実現可能な形に落とし込むという関係性です。経営とビジネスの視点が強いITストラテジストに対し、ITアーキテクトはより技術的な視点からシステム全体の設計に責任を持つ立場といえます。
ITストラテジストの将来性は?
需要は当面続く見込みです。IPAの調査では、DXを推進する人材について量が不足していると答えた企業が85.5%、質が不足していると答えた企業が88.8%でした。人数ではなく水準の不足が上回っており、経営とITをつなげる人材が足りていない状況が続いています。
生成AIの普及によって、どの業務に投資すべきかという判断を担う役割の重要性はむしろ高まりました。技術そのものより、投資の是非を決められる立場ほど代替されにくいといえます。
