ITストラテジストとは?仕事内容・年収・試験の難易度まで解説
2026年02月28日更新
ITストラテジストは、経営戦略に基づいたIT戦略を立案し、ビジネスの成長をテクノロジーの側面から牽引する専門職です。国家試験である情報処理技術者試験のなかでも最難関の「スキルレベル4」に分類され、エンジニアが目指すキャリアの到達点のひとつとされています。
近年、あらゆる業界でDXが加速するなか、単にシステムを構築するだけでなく「ITをどう事業利益につなげるか」を判断できる人材の価値は高まっています。ITストラテジストの知見は、高年収の獲得だけでなく、CIO(最高情報責任者)やITコンサルタントといった、経営に近いポジションへの扉を開く鍵です。
本記事では、ITストラテジストの具体的な仕事内容、年収相場、試験の難易度、そして将来のキャリアパスを整理して紹介します。
著者

大河内 瞳子
Okochi Toko
株式会社MyVision執行役員
名古屋大学卒業後、トヨタ自動車での海外事業部、ファーストリテイリング/EYでのHRBP経験を経てMyVisionに参画。HRBPとして習得した組織設計、採用、評価などの豊富な人事領域経験を生かした支援に強みを持つ。
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監修者

岡﨑 健斗
Okazaki Kento
株式会社MyVision代表取締役
東京大学を卒業後、ボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社。主に金融・通信テクノロジー・消費財業界における戦略立案プロジェクトおよびビジネスDDを担当。採用活動にも従事。 BCG卒業後は、IT企業の執行役員、起業・売却を経て、株式会社MyVisionを設立。
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目次
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ITストラテジストとは?
ITストラテジストとは、企業の経営ビジョンをITの力で具現化し、事業の競争優位性を確立する司令塔です。
かつてのIT部門は「コストセンター(費用を消費する部署)」としての側面が強かったですが、現在はITそのものが売上や事業成長を創出する「プロフィットセンター」へと変貌しています。
そのため、ITストラテジストには、高度な技術知識に加えて、財務、マーケティング、組織論といった経営全般の深い理解が求められます。
また、AIやクラウドといった先端技術が普及した現在、それらをどうビジネスモデルに組み込み、投資対効果(ROI)を最大化させるかという「意思決定」の重みが増しています。この役割を担えるかどうかが、エンジニアとしての市場価値を左右する分岐点です。
ITストラテジストの役割
ITストラテジストの役割は、継続的に企業の競争優位性を確立することです。具体的なミッションは、最新のテクノロジーを駆使して「どの事業に、いつ、どれだけの投資をすべきか」を判断し、事業の成功率を高めることにあります。
現場のエンジニアが「どうつくるか(How)」に注力するのに対し、ITストラテジストは「なぜつくるのか、何をつくるべきか(Why/What)」を追求します。経営層の抽象的なビジョンを、具体的なIT施策へと落とし込むことで、組織全体のデジタル化を牽引する司令塔のような立ち位置です。
ほかの高度情報処理資格との違い
ITストラテジストとほかの高度情報処理資格では、視点の高さと時間軸が異なります。たとえば、システムアーキテクトは「設計の最適化」、プロジェクトマネージャは「現場の実行管理」に重点を置きます。一方で、ITストラテジストはさらに上流の「経営との整合性」を最優先に考えます。
このように、ITストラテジストは技術知識をベースにしつつも、ビジネスの成功に責任を持つという特徴があります。
ITストラテジストの仕事内容
ITストラテジストの仕事は、デスクでの立案からステークホルダーとの調整まで多岐にわたります。
こちらでは、主要な4つの業務について詳しく見ていきましょう。
経営戦略とIT戦略の立案
はじめにおこなうのが、企業の経営目標に連動したIT戦略の策定です。経営陣が掲げる「5年後の売上目標」や「市場シェアの拡大」といったビジョンを達成するために、どのようなシステム基盤が必要かを定義します。
具体的には、市場分析(3C分析やSWOT分析など)をおこない、競合他社に対する自社の優位性をITでどうつくるかを検討します。現状のシステム課題を洗い出し、将来の拡張性まで見据えたロードマップを描くことが求められる工程です。
IT投資計画・ROI分析
どんなに優れたシステム案であっても、それが利益を生まなければビジネスとしては失敗です。ITストラテジストは、提案するIT施策がどれだけの利益をもたらすか(ROI:投資利益率)をシビアに分析します。
開発にかかる初期費用だけでなく、保守運用コストや導入による業務効率化、あるいは売上向上への寄与度を数値化して提示します。限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ)をどのプロジェクトに優先的に配分すべきかを根拠を持って説明することが、信頼されるストラテジストへのひとつめのステップです。
DX推進プロジェクトの統括
現在は「既存システムの刷新」だけでなく「デジタルによる新ビジネスの創出」も重要な仕事です。DX推進のリーダーとして、AIやクラウドなどの先端技術をビジネスモデルにどう組み込むかを主導します。
このフェーズでは、単なるシステム開発の枠を超え、業務フローそのものの見直しや、組織文化の変革をともなうことも多いです。プロジェクト全体を俯瞰し、技術的な実現可能性とビジネス的な価値を両立させながら、変革の旗振り役としてプロジェクトを成功へ導きます。
経営層・事業部との調整
ITストラテジストの日常業務で重要なのが、コミュニケーションです。経営層には「ビジネス上のメリット」を説き、現場の事業部門には「業務がどう改善されるか」を納得させなければなりません。そのため、ITに詳しくない経営層に対しても、専門用語を使わずに論理的に説明する能力が求められます。
各部署の利害関係を調整し、組織が一丸となってIT戦略を推進できる土壌を整える「ネゴシエーター」としての側面も、ITストラテジストの大きな特徴です。
ITストラテジストに必要なスキル・能力
高度な専門職であるITストラテジストには、技術力以上に「ビジネスを動かす力」が求められます。
経営戦略・事業戦略の理解力
大前提として、経営のロジックを理解している必要があります。財務諸表を読み解く力や、マーケティング、サプライチェーン、組織論など、ビジネスに関する幅広い知識が欠かせません。
技術的なトレンドがどうであれ、それが会社の「稼ぐ力」にどう直結するのかを常に考える姿勢が重要です。エンジニアリングのバックグラウンドを持ちつつ、経営者と同じ視座で会話ができる能力が、最大の武器です。
IT投資・ROI判断力
投資に対する費用対効果を客観的に評価する力も不可欠です。「新しい技術だから試してみたい」という技術者的な好奇心ではなく、「この技術を導入することで、年間で◯億円のコスト削減が可能」といったビジネス的な判断力が問われます。
リスク管理の能力もここに含まれます。導入が失敗した際の影響度や代替案をあらかじめ想定し、プロジェクトの健全性を常にチェックするバランス感覚が求められます。
ステークホルダー調整力
異なる立場の人々を説得し、合意形成へと導く力です。とくに、現場のエンジニアと経営層の間で板挟みになることも多いため、双方の言い分を理解したうえで落とし所を見つける柔軟性が重要です。
相手の言葉の裏にある「本当の課題」を汲み取り、それを解決するための提案ができる高い共感力と交渉スキルこそ、ITストラテジストが「AIには代替されにくい」といわれる理由のひとつです。
論理的思考力・構造化力
複雑に絡み合った課題を整理し、シンプルな解を導き出す能力です。ITストラテジストが扱う課題は、決まった答えがないものが大部分です。そのなかで、事実(ファクト)に基づいて論理を組み立て、説得力のある戦略を構築しなければなりません。
多くの情報を抽象化し、重要な要素だけを抽出して図解やドキュメントにまとめる「構造化スキル」は、経営層へのプレゼンテーションにおいて強力な説得力を発揮します。
ITストラテジスト試験の概要
ITストラテジストとしての実力を証明するのが、IPA(情報処理推進機構)が実施する試験です。こちらでは、その概要を整理します。
試験区分と出題形式(午前・午後・論文)
試験は1日がかりでおこなわれ、以下の4つのセクションをすべてクリアする必要があります。
- 午前I:IT全般の基礎知識(共通知識)
- 午前II:戦略立案や経営に関する専門知識(選択式)
- 午後I:記述式の事例解析(読解力と分析力が問われる)
- 午後II:論文形式(自身の経験や仮定に基づいた論述)
とくに「午後II」の論文は、約2,500〜3,000文字を2時間で書き上げる必要があり、高い壁として知られています。
合格率と難易度
例年の合格率は15%前後で推移しています。そもそも受験者の多くが、すでに応用情報技術者やほかの高度資格を持っている実力者であることを考えると、その難易度の高さがうかがえます。
単なる暗記だけでは合格できず、実務経験に裏打ちされた深い考察力や、論理的な文章構成力が不可欠です。IT系資格のなかでも「最難関」のひとつに数えられるため、取得すれば社内外で高い評価を得られます。
受験資格と試験日程
受験資格に制限はなく、誰でも挑戦可能です。試験は年に1回、秋期(10月)に実施されます。
準備期間としては、実務経験者でも半年から1年程度の学習時間を確保するのが一般的です。上位の試験区分(ネットワークスペシャリストなど)に合格していれば、午前I試験が免除される制度もあるので、段階的にステップアップするのも戦略のひとつです。
ITストラテジストの年収相場
ITストラテジストは、エンジニア職種のなかでもトップクラスの年収水準を誇ります。その理由は、ひとりの判断が数億円単位の利益を左右するためです。
平均年収と経験年数別の目安
求人市場における一般的な目安は以下のとおりです。
| 働く場所(主な職種) | 給与・報酬の特徴 | 福利厚生・将来性 |
|---|---|---|
| 大手事業会社(IT企画職など) | 安定した給与体系で年功序列に近い昇給 | 退職金や各種手当が充実しており、生涯年収が高くなりやすい |
| 総合・ITコンサル(コンサルタント) | 基本給が高く、成果に応じた昇進・昇給スピードが非常に速い | 実力主義の側面が強く、高年収を早期に実現できる可能性がある |
| スタートアップ(CTO / VPoE候補) | 基本給に加えてストックオプション(SO)が付与される場合がある | 上場や売却時のキャピタルゲインによる、爆発的なリターンが期待できる |
実装のみをおこなうエンジニアと比較して、経営に近いポジションであるほど年収は上がる傾向にあります。とくにコンサルティングファームや外資系企業では、成果に応じて2,000万円を超えるケースもよくあります。
企業規模・ポジションによる違い
年収は「どこで働くか」にも大きく左右されます。
- 大手事業会社(IT企画職): 安定した給与体系に加え、退職金や福利厚生が充実しており、生涯年収が高くなる傾向がある
- 総合・ITコンサルファーム: 基本給が高く設定されており、昇進のスピードも早い
- スタートアップ(CTO/VPoE候補): 現金報酬に加え、ストックオプションによる将来的な大きなリターンが期待できる場合がある
ITストラテジストへの転職による年収アップ事例
実際に、エンジニアからITストラテジスト(またはIT企画)へ転身することで、年収が150万〜300万円程度アップするケースが多く見られます。
これは「開発スキル」に「経営視点」という希少なタグが掛け合わされるためです。単にコードを書ける人ではなく、事業を成功させられる人として市場に認識されることが、高年収の鍵です。
MyVision編集部で仮の条件で年収をシミュレーションしてみると、35歳のIT企画職(資格保有)は約900万円、45歳の事業戦略担当(CIO候補)の場合は約1,500万円あたりの年収が想定できました。
IT企画職の場合は、現場経験と戦略知識の掛け合わせが評価され、事業戦略担当の場合は、大規模な組織変革やIT投資の意思決定実績が大きく影響する可能性があるからです。自身の経験がどの市場価値に直結するか、正確に把握することが重要です。
AI時代におけるITストラテジストの存在価値
「AIが戦略も立ててくれるのでは?」という疑問を持つ人もいるかもしれません。
しかし、現実はその逆で、AI時代だからこそ人間のストラテジストの価値は高まっています。
生成AIと戦略人材の関係
生成AIは、情報の整理や選択肢の提示を得意としますが、最終的な「意志のある決定」はできません。企業の文化や現場の人間関係、競合の動向を踏まえたうえで、「リスクを取ってでも進むべき道」を決めるのは、人間のストラテジストの役割です。
むしろ、AIを使いこなして戦略策定のスピードを上げることで、より高度な判断に時間を割けます。
DX推進における意思決定ポジション
DXが「当たり前」になった時代において、失敗の原因の多くは技術ではなく「組織の抵抗」や「不明確なビジョン」です。
ITストラテジストは、AIをどこに活用し、どこに人を配置すべきかという「デザイン」をおこなうことで、DXを絵に描いた餅に終わらせない重要な役割を果たします。
AIに代替されない上流設計力
「なぜその技術を使うのか」という問いに対する納得感のある説明や、予期せぬトラブル発生時の倫理的な判断は、AIには不可能です。
人間関係の機微を読み取り、反対勢力を味方に変える調整力は、今後も不変の価値を持ち続けます。
需要が伸びる業界とは
とくに製造業、物流業、金融業など、歴史があり複雑なシステムを抱えている業界で需要が急増しています。これらの業界では、レガシーシステムからの脱却とAI活用を同時に進める必要があり、高度な戦略を描ける人材が枯渇しています。
CIO・IT企画・コンサルへのキャリアパス
ITストラテジストの資格やスキルは、キャリアの幅を大きく広げます。
CIOへのキャリアパス
最高情報責任者(CIO)は、経営陣の一員としてIT戦略の全責任を負うポジションです。エンジニアからCIOを目指すうえで、ITストラテジストの知識は必須条件といえます。技術を経営の言葉で語る訓練を積むことで、企業の舵取りを担うリーダーへと成長できます。
IT企画へのキャリアパス
IT企画は、事業会社のシステム部門などで、現場と経営の橋渡しをします。自社のビジネスを長期的に支え、育てていくことに興味がある人に適したパスです。ユーザーに近い場所で、自分の策定した戦略が会社を変えていく実感を得られます。
コンサルへのキャリアパス
ITコンサルタントとして、いくつもの企業の課題解決を支援する道もあります。多種多様な業界の知見を得られ、短期間で飛躍的な成長を遂げられるでしょう。ITストラテジスト試験で培った「論理的思考力」が直接的に活きる職場です。
一般公開されている情報だけでは、資格の取得で高収入が得られると考え、ITストラテジストを目指す人もいるかもしれません。しかし、MyVision編集部が重視するポイントは違います。
- その企業で「戦略」がどれだけ実行に移されているか
- 経営層にITへの理解があるか
- 意思決定に自分の声が届く距離か
これらの指標で企業を選ぶことが重要です。年収や資格のネームバリューだけで判断を間違えると、転職後に「提案ばかりで実行できない」というストレスに後悔してしまうケースもあります。自分がどの程度まで権限を持てるかなどを確認しましょう。
ITストラテジストを目指すべき人向いている人の特徴
もしあなたが今の仕事に「物足りなさ」を感じているなら、ITストラテジストへの挑戦が人生の転機になるかもしれません。
こちらでは、ITストラテジストに向いている人の特徴を解説します。
経営視点を持ち、事業全体を俯瞰できる人
「このシステムが完成したら、お客様のビジネスはどう変わるのか?」という問いにワクワクする人は向いています。部分最適ではなく、会社全体、あるいは市場全体をよくしたいという視座の高さが最大の資質です。
上流工程やマネジメント経験をさらに伸ばしたい人
開発のリーダーやマネージャーを経験し、「技術だけでは解決できない壁」にぶつかった経験のある人にも向いています。その壁を突破するための答えは、経営や戦略の知識のなかにあります。自分の影響力をより広げたいという向上心は、学習の大きな原動力になるでしょう。
市場価値や年収を中長期で高めたい人
エンジニアとしての実装スキルは、トレンドの移り変わりが早いため、常にアップデートが必要です。しかし、ITストラテジストが持つ「ビジネスとITをつなぐ力」は、一生もののスキルです。年齢を重ねるごとに経験が武器になり、市場価値が高まっていくキャリアを築きたい人に最適です。
ITストラテジストへの転職ならテックゴーへ
ITストラテジストという難関資格を目指す人、あるいはそのスキルを活かしてキャリアアップしたい人は、ぜひ「テックゴー」にご相談ください。
私たちは、単に「資格を活かせる求人」を提示するだけではありません。あなたのこれまでのエンジニア経験をどう「戦略スキル」として言語化し、企業の経営層にアピールすべきかをともに考えます。
一般の求人サイトには出回らない非公開求人も多くあります。あなたの市場価値を最大化するパートナーとして、伴走いたしますので、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
ITストラテジストは、技術と経営をつなぎ、未来を切り拓く最高峰の専門職です。その道のりは決して平坦ではありませんが、得られる報酬、やりがい、そして将来の安定性は計り知れません。
試験の合格はあくまでスタートラインです。そこで得た知識を武器に、実際のビジネスの現場で「変革」を起こしていくことこそが、ITストラテジストの真の醍醐味です。
経営に寄り添うエンジニアとしての第一歩を、今ここからはじめてみませんか。
ITストラテジストに関するよくある質問
こちらでは、ITストラテジストに関するよくある質問にお答えします。
ITストラテジストは本当に転職に有利ですか?
有利だといえます。とくに事業会社のIT企画やDX推進室、コンサルティングファームへの転職では、有力なカードのひとつです。資格そのものに加え、「この難関試験を突破できる論理的思考力と継続力がある」という証明にもなるためです。
ITストラテジストの資格だけで年収は上がりますか?
資格取得のみで即座に大幅アップするケースは稀ですが、昇進の条件であったり、転職時の給与交渉で強力な武器になります。資格を「実績」と掛け合わせることで、結果として数百万単位の年収増につながります。
ITストラテジストとプロジェクトマネージャの違いは?
プロジェクトマネージャは「決まった計画を期限内に成功させる」守りの側面が強く、ITストラテジストは「何をするのが会社にとって最善か」という攻めの戦略を立てる側面が強いです。時間軸でいうと、PMは短中期、ストラテジストは中長期の視点を持ちます。
